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長い夜

島の夜は長い。
毎晩、手帳を眺めながら指折り出島までの日数を数えてみたり、何度も開いては閉じた日本アルプスの地図をもう一度開いて妄想を膨らませてみたり、チキンと称して鳥の缶詰を食べてみたりして眠くなるのを待つ。

ただでさえ長い島の夜だけど、チッペが山に出かけた夜は特に長い。
昼間は気にならなかった細々としたことが、夜になると少しずつ膨らんで、いつの間にか僕の心は「不安」という魔物に取り憑かれてしまう。

チッペが北岳バットレスに登りに行った。

冬のバットレスは僕たちにとってちょうど良い相手だが、僕は島でお留守番。
日中仕事をしている時は何ともないのに、夜になると、またあいつが襲ってくる。

雪質は?
風は?寒さは?
アプローチで油断して八本歯で転んでないか?
ボルトが掘り起こせずランナウトした状態で行き詰まってないか?
懸垂のロープが風になびいてこんがらがってないか?
寒くないか?
疲れてないか?
落ちてないか?
死んでないか?
生きてるのか?
本当に生きてるのか?

大丈夫に決まっているさ!
そうやって誤魔化しても魔物には通じない。
ますます心拍数が上がる。

初日の幕営地から送られてきたLineメッセージが良くなかった。
北岳バットレスは携帯圏内で、幕営地も携帯圏内。
アタック日だって登攀終了したらメッセージを送ってくれるはずだ。
そう思ったのが良くなかった。

日が沈んでも連絡が無い。
夜が更け、魔物が暴れ出しても連絡が無い。メッセージがあれば音がなるから分かるのに、それでも気になって5分おきにLineをチェックしてしまう。
最近、身近な人の遭難が続いている。魔物にとってこれほど都合の良いことは無い。

深夜1時過ぎ、突然部屋の内戦電話が鳴った。もちろんチッペからは有り得ない。

現実になるなんて…
半分諦めた気持ちで、電話に出た。

山とは関係の無い電話だった。
洋上で急患が発生した旨を伝える電話だった。いつもだったら嫌な電話だが、ホッとした。
バタバタと準備をしてヘリに乗り込む。動いていれば魔物も近付いてこない。ヘリの中でじっとしているとまたチラチラと魔物の影がちらつくが、僕は気が付かないふりをして患者の情報を再確認した。

島に戻った時は朝だった。
まだチッペからの連絡は無い。だけど、魔物は太陽に弱いようだ。
不安が無い訳ではないが、それは通常考えられる程度であって、もはや僕を苦しめる魔物は居ない。

携帯のバッテリーが切れたんだろうな。

そんなことを考えながら過ごしていたら、昼過ぎに下山報告があった。

山に登ると、誰かの心に魔物を呼び込んでしまいます。
それはしょうがないことです。どんなに長くても夜は明けるから我慢してください。
だけど、誰も不安にさせないような人でも山で死にます。
人を不安にさせることは良くないけど、山で死ぬことはもっと良くないことです。

死なないために強くなる。強くなるために山に登る。
僕たちはきっと、かなり馬鹿なんだろうな。
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フリクションは重要

外岩でもジムでも自分の限界グレード周辺にトライする時はフリクションが重要な要素になってきます。
おそらく、クライマー1人1人が自分にあったフリクションを高める方法を模索していることでしょう。

「フリクションを登れないことの言い訳にしたくない」という人も多いけど(言い訳にする人も多いけど)、フリクションを高めるのも技術の1つと捉えることもできます。
また、「そんな所にこだわるのってなんかクライミングの本質から外れてるっぽくてかっこ悪いよね」とか言われそうな気もするけど、つまりそれはフリークライミングとしてカッコイイ行為は何かという話ですね。フリーソロを頂点としボルトラダーのエイドを底辺とした時、自分はどこまで妥協するのかという話です。人が打ったボルトは有り、途中の練習は有り、シューズは有り、チョークは有り、ボルダーマットは有り、ホールドのマーキング有り、ウェブザベ有り、というのが通常のスタイルの中で、フリクションを上げる行為にこだわることは決してカッコ悪い行為とは言えないでしょう。シューズにこだわるようなものですね。
ってことで、もっとフリクションを上げる方法についても議論されないかなあ、と思うわけです。

ジムホールドはしっかり磨けばワングレードぐらい変わってくるし、岩場では手の温度が非常に重要な気がします(僕は水で手を冷やしてからトライするなんてこともあります)。トライ前に指先をギュって押すことで先に汗を出しておくといざホールドを握りこんだ時にヌメラないなんていう説を聞いたこともあります。
「ヌメル汁手」とか「乾いてハジク」とかもなんだか都市伝説的な雰囲気が漂っていて、科学的な議論がされた事は無いように思います。

僕は物理とか化学は苦手だけど、おそらく接地面積や摩擦係数の話になってきて、接地面積はブラッシングやチョークの量なんかで変化し、摩擦係数(この場合、そういう言葉が正しいのかもわからないけど)は濡れてる部分の面積で変わったりするんでしょう。濡れてる部分を減らすためには(湿度は一定とすれば)岩と手の温度差が無く冷えていた方がいいように思います。「乾いてハジク」のは指皮の硬さで接地面積が減るとかそんな話かもしれません。

上記のことは超適当に書いたのでめちゃくちゃだけど、正しく議論されれば、フリクションの上げ方もより洗練され、ヌメル悩みやハジク悩みが解消されるかも知れません。そして登れるグレードも上がるのでは無いでしょうか。

先日、島に帰ってきたら机の上にこんなものが置いてありました。


東京粉末。Nさん、ありがとうございます!

今まで使っていたチョークは何かわからないけど、鉄棒にぶら下げっぱなしにしたら雨とか鳥のフンとかでぐちゃぐちゃで、ま、それでも乾けば普通にチョークだし、トレーニングはできていたから気にしなかったんだけどさ、さっそく東京粉末にしたら全然違うじゃん!
今まで6回とかしかできなかったメニューが10回できちゃったりするのね。できない理由は筋力だと思っていたんだけど、フリクションが良くなるだけでこんなにパフォーマンスが上がるのね。というか、東京粉末ってこんなにいいのね。少なくとも島の気候と僕の手とロックリンクスには最適に感じています。
なんか強くなった気がしてモチベーションも上がります。

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年末から2月中旬まではほとんど精神と時の島にこもっています。
時には苦しいこともあるけれど、この粉を心の拠り所にして頑張ります。
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いつも笑顔のペコマです!

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